求人情報提供ガイドラインと適合メディア宣言について、月刊人材ビジネス12月号に掲載されました。
2018年1月1日 改正職業安定法 施行
〈改正職安法対応〉求人情報提供ガイドラインと適合メディア宣言発進
公益社団法人全国求人情報協会(以下、全求協 鈴木孝二理事長)が2016年度に引き続き2017年度も厚生労働省から受託している「平成29年度求人情報提供の適正化推進事業」。その取組の中核が、「求人情報適正化推進協議会」(以下、協議会)によって2017年2月に制定、9月に改訂された「求人情報提供ガイドライン」と、ガイドライン遵守を推進するための「適合メディア宣言制度」だ。「改正職業安定法」の施行が2018年1月1日に迫る今、協議会座長を務める阿部正浩中央大学経済学部教授に、改正法との関わりも踏まえながら取組の意義などを聞く。
はじめに
①「求人情報提供ガイドライン」 (以下、ガイドライン)とは?
求人情報提供ガイドライン(以下、ガイドライン)は、媒体の差異を横断、求人情報掲載にあたって「配慮することが望ましいガイドライン」を自主規制の形で定めたもの。①求人情報を提供する際の「倫理綱領」②メディアでの情報掲載前後に確認するべき事項③表現上の留意事項④掲載明示項目および明示に努める項目、等から成る。厚労省委託事業「平成29年度求人情報提供の適正化推進事業」の中核を担う協議会が2016年夏より協議を重ねて2017年2月に策定、11月に改訂版が発表された。それぞれの項目についてガイドラインの根拠となる考え方、「可」である表記と「不可」である表記の実例など詳細な解説もなされている。
②「適合メディア宣言」来年6月開始
ガイドラインを遵守する動機付けとなる仕組。求人情報提供事業者が「ガイドラインに沿った取組(倫理綱領の制定、事前審査と事後審査の仕組づくり、明示項目など掲載ルールの遵守など)を行っており、社内で改善のためPDCAサイクルを回している」ということを「自ら」宣言するもの。ガイドラインが「自主規制」であること、求人情報提供事業者がメディアを通じ社会に対して発信する立場であることなどから、「自ら宣言する」という形式が採用された。2018年6月より運用開始。宣言を行うとメディアでその旨を告知することができ、信頼度の差別化につながる。
掲載明示項目および明示に努める項目の区分(一部)
※●は掲載明示項目、○は明示に努める項目
項目 | 区分 | |||
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- | 新卒 | |||
①労働者を雇用しようとする求人企業・事業主の正式名称(社名等)および所在地 | ● | ● | ||
②事業内容 | ● | ● | ||
③仕事内容(職種名または職務内容) | ● | ● | ||
④雇用形態・雇用期間の定めの有無 ※業務請負事業で登録者を募集する場合は、登録制であることがわかること |
● | ● | ||
⑤就業の場所 | ● | ● | ||
⑥就業時間(勤務時間) | ● | ● | ||
⑦賃金(採用時に支払われる最低支給額) ※固定残業手当を含む場合は、手当の金額、固定残業手当で支払い対象となる残業時間数、超過分支給の旨 |
● | ● | ||
⑧試用期間や見習い期間などがあり、その前後で雇用形態や賃金等の条件が異なる場合、その期間と内容 | ● | ● | ||
⑨応募資格(必要な学歴、経験、公的資格等) | ● | ● | ||
※新卒メディアの場合は、応募資格となる学歴(学校種)および採用予定学科 | - | ● | ||
※採用予定数(未定の場合はその旨)および前年採用実績数 | - | ● | ||
⑩応募方法(応募のための電話番号等連絡手段、その他必要に応じて担当者名、必要な書類、面接・選考の場所等) | ● | ● | ||
※新卒メディアの場合は、応募から選考の過程において提出が必要となる書類 | - | ● | ||
Ⓐ時間外勤務の状況、休憩時間、裁量労働制等の場合はその旨 | ○ | ○ | ||
Ⓑ休日 | ○ | ○ | ||
Ⓒ適用される社会保険、労働保険 |
○ |
○ |
阿部正浩 協議会座長に聞く
「外部労働市場の役割が大きくなる中、求人情報提供事業者の社会的責務は重い」
─「ガイドライン」「適合メディア宣言制度」設立の背景について教えてください。
阿部座長
取組みの背景として第1のポイントは「社会からの要請」です。その象徴が、2017年3月に設立し2018年1月1日より施行される「改正職業安定法」だと言えるでしょう。改正職業安定法では、「労働者を募集する企業」が求人をする際に明示しなければならない労働条件などに関する新たなルールなどが定められると共に「職業紹介事業者」そして「求人サイト・求人情報誌などを運営する事業者=求人情報提供事業者」に対しても募集内容の的確な表示、業務運営に関する事項などについて新たなルールが課せられました。なぜ、このような改正がされたのか。その要因として、構造的な労働力不足が社会の課題となる中、労働力の流動化を担う外部労働市場の役割の比重が重くなったことがまず挙げられます。具体的に言いますと、有効求人倍率はバブル期以来の高水準となると共に「求人情報」を巡るトラブルも増大しているのはご周知のとおりです。外部労働市場の健全な発展のためには、同市場で事業を展開している人材ビジネス企業が守るべきルールを法律により改めて定義しなおすことが必要だったと言えるでしょう。特に、求人情報提供事業者については、入職経路の3割以上を求人広告が占めるなど、外部労働市場における存在感はきわめて大きく、その社会的責務は名実ともに重いということが今回の職業安定法の改正でも示されたと考えていいでしょう。つまり、この責務を果たすためには事業者が自ら「求人広告の適正化」に取組むべきなのであり、そのための第一歩として「ガイドライン」「適合メディア宣言制度」を制定しました。
コストをかけて適正な情報提供に取組む「基準」と「インセンティブ」が必要
阿部座長
取組みの背景の2つめのポイントとしては、求人情報提供事業の内部的な変化があげられます。求人広告が労働市場で信頼を得ているのは、全求協や新聞協などの業界団体、事業者各社が適正な情報提供のための自主規制に真摯に取組んできたからだからと言えます。一方で、昨今、業界に新たな参入者が相次ぎ情報提供のメディア・形態も多様化しています。今回、改正職業安定法で「募集情報等提供事業」について定義がされたのは、こうした状況を反映してのことだと思います。こうした状況だからこそ、メディアなどの差異を超えて適応できる「基準」とそれを守ることに対する「インセンティブ」が必要な環境になったと言えるでしょう。と言いますのも、適正な情報発信のためには審査機関を設けるなどコストがかかります。コストをかけて適正な情報発信に取組んでいる事業者が市場競争力を失う、いゆわる「悪貨が良貨を駆逐する」状況になれば業界の社会的信頼は地に堕ちるでしょう。こうした事態を防ぐための業界全体が共有できる「自主規制のための基準」がガイドラインであり、それを守ることのインセンティブの仕組が「適合メディア宣言」です。
─ 改正職業安定法の施行を受け、ガイドラインを改定された部分は?
阿部座長
改正職業安定法では「労働者を募集する企業」が最低限明示しなければならない労働条件等が改めて明示され、「試用期間」「裁量労働制」「固定残業代」などが新たに追加されました。ガイドラインにおいても、「掲載明示項目および明示に努める項目」を見直しました。
求人情報の現場で活かされる仕組づくりを目指す
─ 今回の取組みにおいて特に力を入れられたことは?
阿部座長
求人情報提供の現場で「運用できる」仕組にすることです。協議会のメンバーを一覧いただければ理解していただけると思いますが、協議会には「労働者=求職者側」「使用者=求人企業側」「求人情報提供事業者側」という3者の代弁者に参画していただきました。ガイドラインの策定にあたっては、例えば、「掲載明示する項目」などについて、「求職者側」と「求人企業側」では主張が異なりますし、「求人情報提供事業者側」としても、スペースやシステムの制約、営業上の事情などから要望が出ました。求人情報の社会的役割から見てガイドラインの策定にあたりもっとも重要なのは、「求職者の視点」であるのは言うまでもありません。しかし、「求人情報提供事業者側」「求人企業側」の2つの視点を無視すると、現場で運用できず、結果的に有名無実なものになってしまいます。そうならないよう、協議会において3者で議論を積み重ね、内容を練り上げました。
─ 求人企業が適正な情報を求職者に提供するためには、中間にいる求人情報提供事業者、特に求人企業との最前線に立つ営業職の役割は大きいですね。
阿部座長
そのとおりです。今後の課題として「ガイドライン」の存在や内容は、求人企業にも知っていただきたいですが、まずは、より多くの求人情報提供事業者に知ってもらいたいと考えています。1月からセミナーも開催しますので、1社でも多くの人に参加していただき、参加者の方から営業をはじめとする現場の方にも浸透をはかっていただきたいですね。事務局としても、ガイドラインをWeb化するなど、仕事と両立させながら学んだり、日々の仕事の傍らで参照できるような工夫をしていく予定です。
求人広告には求職者の心を動かす“物語文学的”要素がある。それを創る自由を守るためにも自らを律する必要あり
─ 改めて「ガイドライン」を活用し「適合メディア宣言制度」に取組む意義を教えてください。
阿部座長
私自身、今回の取組みに関わる中で多くの求人広告に触れ気づいたことがあります。それは、「求人広告は、読者の心を動かす一種の“物語文学”でもある」ということです。もちろん、虚偽は絶対許されずガイドラインで提示している労働条件は求職者に必ず伝えるべき情報です。同時に、求職者が未来につながる決断ができるためには、それにプラスして「心が動かされる要素」が必要だと思うのです。こうした要素を創るにはある程度の自由度が求められます。「ルール」をおろそかにし求職者に不利益を与えてしまったら、規制が必要以上に強まり「自由」を守れなくなってしまう恐れもあるのではないでしょうか。求人広告の存在意義を守り高めるためにも、ぜひ、業界全体の「自主ルール」を学び遵守するという今回の取組みに参画していただきたいと思います。
求人情報適正化推進協議会 委員
※印は座長(五十音順・敬称略 所属・役職は2017年10月現在)
委員名 | 所属・役職 |
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※阿部 正浩 | 中央大学 経済学部教授 |
石田 敬二 | 一般社団法人日本人材紹介事業協会 専務理事 |
江口 匡太 | 中央大学 商学部教授 |
遠藤 和夫 | 一般社団法人日本経済団体連合会 労働政策本部副本部長 |
岡芹 健夫 | 髙井・岡芹法律事務所 所長弁護士 |
鎌田 耕一 | 東洋大学 法学部企業法学科教授 |
古賀 友晴 | 日本労働組合総連合会 総合労働局 労働法制対策局 部長 |
嶋﨑 量 | 神奈川総合法律事務所 弁護士 |
杉崎 友則 | 日本商工会議所 産業政策第二部 副部長 |
鈴木 孝二 | エン・ジャパン株式会社 代表取締役社長 |
中村 天江 | 株式会社リクルートホールディングス リクルートワークス研究所 労働政策センター長 |
原 昌登 | 成蹊大学 法学部教授 |
菱沼 貴裕 | 全国中小企業団体中央会 労働・人材政策本部労働政策部部長代理 |
峯尾 太郎 | パーソルキャリア株式会社 代表取締役社長 |
吉田 修 | 公益社団法人全国求人情報協会 常務理事 |
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